為替リスクとハイブリッド/マルチクラウド、そして構成管理

2022年10月18日

ワイドテック プロダクト企画のYです。

このコラムはある時期以降、「月1回」書くのが「ノルマ」になっています。
以前は好きな時に、好きな内容で書いていたのですが、POLESTARチームから月1回のメルマガを出し始めた頃から、なし崩し的にそうなってしまいました。

今はWidefoneの立ち上げ中で、そちらが業務の大半を占めているので、運用管理業界から少し離れてしまっている状態ですが、ともあれ、継続は力なりということで、これまで続けてきています。しかし、今回はネタがなかなか思い浮かばず、山積する業務が止まってしまうほどでした。もう6年やっていますが、これほどテーマ探しで悩んでしまったのは初めてです。


■日本政府認定のパブリッククラウドは、すべて米国系に

コラムのネタ出しで悩んでいる間に読んだネット記事に、こういうものがありました。

政府共通のクラウド基盤、国産サービスの応札は「なかった」 河野大臣がコメント
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2210/05/news084.html 出典:ITmedia(2022年10月05日 10時51分 公開)

2回目となる政府認定パブリッククラウドサービス「ガバメントクラウド」の応札者に、またも日本のクラウドベンダーが含まれていなかった、という内容で、河野太郎デジタル相の記者会見を記事にしたものですが、大変残念に思いました。

選ばれたのはAWS、Google Cloud(GCP)、Microsoft Azureといういわゆる「3大クラウド」と、永年無料でサーバー2インスタンスを使わせてもらえる(実は自分も大いにお世話になっています)ことでも知られるOracle Cloudの4つでした。

ガバメントクラウドに応札するには、日本政府の定めたセキュリティ基準「ISMAP(ずっとアイスマップだと思っていたのですが、イスマップと読むそうです。SMAPはスマップでいいのですね)」を満たす必要があります。 ISMAPで認定されたクラウドサービスのリスト(https://www.ismap.go.jp/csm?id=cloud_service_list)を見ると、日本企業のパブリッククラウドも結構入っています。しかし、それでもガバメントクラウドに応札した企業はゼロでした。

ガバメントクラウドについては、ISMAPに加え、業務の継続性など約350項目の条件を満たす必要があるそうで、前回は3社が応札してAWSとGCPが選ばれ、1社が脱落しました。

今回は1社も脱落なく選ばれています。

前回の選定時にも国内クラウドベンダーの不在を嘆く声があり、今回も同様な論調の記事があちこちに出ましたが、もう日本企業は官公庁・自治体に自社のクラウドを採用してもらうことすら諦めてしまったのか、と思うとやはり残念ではあります。

国内の業界からは、「規模の経済」、つまり量・質ともに莫大な規模で世界展開する3大クラウドなどを最初から前提としていると考えられる、デジタル庁の選定基準の厳しさへの指摘が目立つようです。そもそも小規模な国内ベンダーには勝ち目はなく、最初から勝負を諦め、不戦敗となるのは必至だったというわけです。

もちろん、ガバメントクラウドの公募は今回で終わり、というわけではないのでしょうが、今の状況で日本のベンダーが入ってくる可能性は、次の公募でも高くなさそうです。


■海外クラウド依存には為替リスクも。しかし…

海外クラウドへの極度な依存は、政府・公共セクターだけではなく、民間でも起きてしまっているようですが、さっそく副作用が出てきています。
何十年ぶり、という記録的な超円安による、請求金額の上昇です。

基本的に3大クラウドの料金はすべて米ドル建てであり、それを実際には日本円で払うわけですが、海外クラウドに大きく依存しているWidefoneを提供する立場から、毎月の料金を眺めるたびに、ため息をついてしまいます。

MM総研の「国内クラウドサービス需要動向調査」によれば、円安を受けて「新規開発に限り利用する」・「収益化できる開発に限り利用する」とするユーザーが32.7%でした。しかし、全体的には、3大クラウド利用企業の46.5%が、このまま円安が継続しても「現在のまま使い続ける」と回答したそうです。

もっとも、調査時点の6月では、ドル円レートは平均で134.15円でしたから、145円を超える今ほどの超円安ではありませんでしたが、結局、選択肢が他にないので、この超円安でも使い続けるしかないという状況は、たぶん変わっていないと思います。


円安が続いた場合におけるAWS/Azure/GCP利用動向(n=383)(MM総研)

Project CからWidefoneへ

※株式会社MM総研プレスリリースより(2022年8月24日):https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=549


■日本のクラウドは「ハイブリッド」「マルチ」へ

前回のコラム(運用自動化ツールとは? 2022年版(6年の時を経て再考))にも、「日本のクラウドの主流はハイブリッドクラウド(パブリッククラウドとプライベートクラウド/オンプレミスの併用)」と書きました。

日本の場合、クラウド導入のトレンドが北米等に比べると遅くやってきた上、しかも石橋を叩いて渡る慎重さを誇る日本のIT業界ですので、極東の大市場として3大パブリッククラウドが早くから日本リージョンを展開していたにもかかわらず、体感としても歩みはかなり遅いように思います。

海外ではパブリッククラウド万能論からの「撚り戻し現象」と捉えられているハイブリッドクラウドが、日本ではオンプレミス信仰から抜け出す過程の一環として浸透してきているように思います。結果的には同じ方向に向かっているわけですが。

あとは、複数ベンダーのクラウドを使い分ける「マルチクラウド」も、この円安を機に拡がる可能性があると思っています。

マルチクラウドというと、これまでは3大クラウドにおいて、基本はシェアが最も高く、ナレッジも蓄積されているAWSを使いつつ、Active Directory(AD)連携が必要な部分はAD本家のAzure、AI関連やKubernetesなど先進的な取り組みにはGCP、のような使い分けがみられました。もちろん、特定クラウドへの依存を避け、リスクを分散する目的もあります。そこに今後は、為替対策・コストセーブのために、国内クラウドを組み合わせるようなケースも出てくるかもしれません。

先のMM総研の調査でも、為替に左右されない「国内ベンダーのPaaS/IaaSを利用する」との回答が28.3%でした。円安がさらに進んだ現在は、この選択肢がもっと増えている可能性があるでしょう。

実は、Widefoneなど弊社の自社サービスでも一部国内クラウドを利用していることは、以前のコラム「新サービス「Widefone」と運用自動化・構成管理」で触れました。ただし、これは為替リスク回避が目的ではないのですが…


■ハイブリッド/マルチクラウド運用の煩雑化はPOLESTARで解決!「Japan IT Week 秋」へ!

ハイブリッドクラウドやマルチクラウドにはメリットも大きいのですが、課題は管理の煩雑化です。

パブリッククラウドのコントロールパネルは各サービスで異なりますし、各サービスごとに用意されている管理サービス(監視や自動化コマンド)などの学習コストも必要になります。特に構成管理については、それぞれのクラウドの機能を用いて個別に行うのは、非効率的です。

そこでPOLESTAR Automationです。
1つのUIで横断的な構成管理や自動化コマンドの投入が可能になりますし、各クラウドで提供されているCLI(コマンドライン)と組み合わせることで、高度な統合管理も実現できます。


さて、弊社からPOLESTAR Automationをリリースして以来、唯一、これまでコロナ禍等を受けても中止されることがなく、POLESTAR Automationも欠かさず出展を続けてきた展示会が、幕張メッセで毎年開催されている「Japan IT Week 秋」です。今年度は10月26日(水)~28日(金)で、弊社ブースは第7ホールの39-51です。

今回はZabbix連携など定番デモに加え、年末にリリースする予定の2つの新機能「ネットワーク自動化」と「クラウドディスカバリー」も初めてご紹介します。
特に「クラウドディスカバリー」は、大規模なクラウド運用において課題となっている、企業の現場で立てておきながら、使われなくなっている「野良クラウド」を見つけ出すための機能です。(実はこのコラムの執筆時点では、まだ現物を見られていません)

と、いうわけで、幕張に来られる方は、ぜひともPOLESTARブースにお立ち寄りになり、直接ご確認いただければ、と思います。
POLESTAR関係者一同、皆様のご来場をお待ちしております。